前回まで団体政治について扱ってきました。今回からは政党政治、つまり実際の政治を操作する者に視点を向けていくことにしましょう。
日本の国政政治家がどのように選ばれ、また当選を果たしていくのか。その過程は単に選挙運動の巧拙だけでなく、歴史的に形成されてきた選挙文化、政党組織のあり方、そして候補者個人がもつ資源によって大きく左右されます。ということでそれらの資源をどのように獲得するのかを含めて説明していきます。
「地盤・看板・カバン」という三要素
日本国内の選挙としては「地盤」「看板」「カバン」が当選するために必要であるとしばしば言われます。ということでその3つについて説明していきます。
「地盤」とは
地盤とは、選挙区における支持基盤そのもののことです。具体的には、地元の有力者との結びつき、地域の有権者組織、後援会活動などになります。団体政治などの圧力団体もこの地盤の一種になります。後援会は候補者の選挙活動を日常的に支え、地域住民との結びつきを強める装置として機能してきました。
後援会は政党によって形成される団体ではなく、政治家個人に対する支持基盤として存在します。したがって黙っていれば作られるのではなく、政治家自身がそれらの人々を繋ぎ止めることが必要となります。したがって日常活動を通じて、顔や名前を覚えてもらうことが必要になります。そしてそれらが直接選挙時の票につながっていくことは明らかです。そのため「金帰火来」という言葉が示すように国会の終わる金曜日に選挙区に帰って、国会のある火曜日に東京に帰ってくるというようなスケジュールの国会議員が多いのです。
また特に中選挙区制(一つの選挙区で複数の議員が当選する)の場合には、同一政党内での競争が激しく、後援会による「票の割り振り」が重要な役割を担っているわけです(現在は参議院選挙の複数人選挙区の場合)。
「看板」とは
看板とは、候補者の知名度やブランド力のことです。学歴や経歴、マスメディアでの露出、また家系的な知名度などが「看板」として作用します。著名な大学を卒業していることや、官僚としてのキャリア、あるいはタレント出身といった要素も、候補者の「看板」として有権者に強い印象を与えます。
ちなみに同じ学校の出身者が選挙に出ていると、同窓生ということで票が集まることもあるようです。そのようなことも手伝って経歴を政治家はどんどん前面に出した選挙活動をすることがあります。
「カバン」とは
カバンとは、選挙資金のことです。選挙運動には多額の資金が必要となります。なぜそこまで資金が必要になるのか、それは多岐にわたる経費があるためです。例えば次のようなものがあります。
- 後援会活動の維持
- 事務所の設置
- ポスターやビラの作成
- 秘書の給与
事務所は永田町の議員会館だけではなく、地元にも必要になります。ここでは有権者からの請願などを受け付けたり、文字通り議員の活動を事務的にバックアップします。そしてその業務を行う秘書が必要になります(いわゆる事務員として)。その秘書は「第1秘書」「第2秘書」「政策秘書」の3人は公費で雇うことができます。しかしそれ以上は「私設秘書」として議員のポケットマネーから支払う必要性があります。
以上のような事情から選挙資金がどれだけあるかで選挙戦が有利に進むかが決まってしまうというのが現状になっています。
これら三要素を充実させることが、候補者にとっての「当選可能性」を高める基本条件となっているのが日本政治としての現状です。
政治家の探し方
政治家になるために必要なことは次の二つです。
- 一定の年齢以上であること(衆議院25歳・参議院30歳)
- 日本国籍があること
ということで特別な資格が必要なわけではありません。したがって、政治家になる素質のある人を視覚などで判断することはできないのです。ではどのようにしてそのような人材を探すのでしょうか。一般的な方法として「政治的リクルートメント」という方法があります。それについて扱っていきます。
政党の役割と政治家の選び方
選挙というのは、後援会を含めた候補者個人の努力が必要不可欠となります。しかし、それだけでは限界があります。そこで重要になるのが、政党による支援です。政党は単に政策を掲げる組織ではなく、候補者を選抜し、公認し、当選に導く役割を担っているのです(詳しくは政党のところで詳しく扱います)。
「政治的リクルートメント」とは
政治家を政党が発掘する過程のことを「政治的リクルートメント」と言います。すなわち、政治家志望者の中から誰を候補者とするかを決定し、選挙区に送り出すプロセスのことをいいます。
政党公認はやはり特定政党を支持する有権者からの支持を集めやすいですから、当落を大きく左右する要素となります。また、公認候補となれば、政党からの資金援助、選挙スタッフや支持団体の支援を受けられるため、無所属候補に比べて格段に有利となります。
また、政党のリクルートメントは、政治家の社会的属性に影響を与えます。政党がどのような基準で候補者を選ぶかは、結果的に議会における多様性を規定することになりますから、もし政党が官僚や世襲候補を優先して公認すれば、議員の顔ぶれは特定の経歴に偏ることになります。
[参考]日本政治における政治家の特徴
日本政治としての政治家の特徴は次の3つがあります。
第一に、世襲議員の多さです。衆議院議員の約3割が世襲であるとされています。父や祖父が国会議員であった場合、その選挙区における地盤(後援会組織)、看板(家名の知名度)、カバン(政治資金)をほぼ自動的に継承することができます。そのため、新規参入者に比べて圧倒的に有利な立場から出発できるのです。世襲は、政治の閉鎖性や「政治家の職業化」を促進する要因とされ、しばしば批判の対象となります。
第二に、官僚出身者の多さです。特に旧大蔵省(現財務省)、外務省、経産省などの高級官僚が、退官後に立候補する「天下り的政治家」パターンは日本政治に特徴的です。官僚出身者は行政経験や政策知識を有している一方で、政治的リクルートメントの多様性を狭めるという批判もあります。
第三に、女性議員の少なさが指摘されます。国際的に比較すると、日本の国会における女性議員比率はOECD諸国の中で最低水準に位置しています。政党による公認過程や、選挙区における支持基盤の形成の難しさが、女性候補の進出を妨げているとされています。
政治的リクルートメントの課題
以上を踏まえると、日本政治の政治家リクルートメントの課題は次のように整理できます。
第一に、世襲政治家の固定化が目立ちます。地盤・看板・カバンの親などからの継承は、政治家になるための最初のフェーズから、機会が不平等となってしまいますから、民主的な代表性を損なう恐れがあると言えるでしょう。
第二に、社会的多様性の不足です。女性、若者、マイノリティ、民間出身者などの議員が少ないことは、政策形成に偏りをもたらします。その背景には官僚出身者特定の社会集団の声が過小にしか反映されないという構造的問題が存在します。
第三に、政党リクルートメントの不透明性も課題です。候補者の公認プロセスは必ずしも公開されてるわけではないので、党内の派閥力学や既得権が影響することが多いです。そのため、有権者にとって納得感のある候補者選びが行われているとは言い難い面があります。


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